14.スマイルカーブ
スマイルカーブとは、台湾コンピュータメーカー・エイサー(宏碁電脳)社の創業者であるスタン・シー(施振栄)会長により、自社ビジネス構造の特徴を示したものとして紹介されたものです。つまり、当初の「スマイルカーブ」はPC事業に限定されていたものでした。
スタン・シー・モデルの概要は、PC事業について以下のように定義しています。
1.上流プロセスである「中央演算装置(CPU)、DRAM、モニター、ハードディスクなど」を上流工程、
2.「加工組立」を中央に、
3.下流工程を「ブランド、チャネル、ロジスティクス」としています。
つまり、スマイルカーブ(
Fig.1
)とは、新しいビジネスモデルを事業化したものです。
従来の加工組立型製造業を中心としたビジネスモデル(製品の素材・部品−加工組立−販売−サービス等)では、加工組立の付加価値(率)もしくは利益(率)が収益の源泉でいた。
しかし、グローバルな競争の進展のもとで、これらの利益率が低下し、素材・部品やサービスといったビジネスシステムの両端の付加価値(率)もしくは利益(率)が上昇するというものです。
その結果、ビジネスシステムの付加価値(率)もしくは利益(率)を川上から川下へ並べると、そのカーブが笑ったときの口のような形(スマイル)となることからその名がついています。
時代の経過と共に、このスマイルカーブ現象は、パソコン事業だけでなく、エレクトロニクス産業、情報通信産業、自動車産業などでも各種のシンクタンク、コンサルティング会社、教育機関などで確認され、製造業全体にまで拡大していきました。この概念は、「品質とコストにおける競争は同質化し、利益率は低下する」ということであり、製造業組立企業において警鐘として用いられ、事業再構築の加速化にインパクトを与えました。つまり、組立企業の収益率は低下し、部品企業、サービス企業、ソリューション企業などの収益性が向上することを意味しています。
スマイルカーブという概念を理解する事例を2つ紹介します。
1つは、スマイルカーブという言葉を一般化した松下電器産業のケースです。事業再構築中の2000年11月に発表した「創生21」プランの中にスマイルカーブという言葉が登場します。その際のスマイルカーブの横軸は「売上高」、縦軸は「利益」でした。すると、セット事業部から「我々に事業部は利益を上げなくてもいいのか」との批判を受け、中村社長は2003年度経営方針では
Fig.2
で示す「スマイルカーブ」に変化しています。松下のスマイルカーブの変遷に関しては、週刊ダイヤモンド2003/03/08号に詳しく紹介されています。また、松下電器の2003年度経営方針に関しては、2003年1月10日付プレスリリースを参照願います。
この変遷は、新しい経営手法の概念を把握し、正しく実践、カスタマイズし実効を得る貴重なプロセスを示しています。この視点からも、上記2件の原資料は大変興味深いものです。是非、ご覧ください。
もう1つの、最近の話題は、アップルのヒット商品、iPodです。iPodは、このスマイルカーブを実践した商品であると言われています。iPod製品の部品価格の4割強は日本製と言われています。業界情報、マスコミ情報、各社公表情報などで、登場する日本企業は15社程度です。その中には、日本を代表する企業、日立、TDK、東芝、日本電産、村田製作所、セイコーエプソン、三洋電機、ミネベアなど多岐多種の企業が含まれています。
業界では、iPodを≪利益はアメリカ、部品供給(ものづくり)は日本、労働力は中国≫と揶揄されています。正に、スマイルカーブそのものです。スマイルカーブの両端(相対的に収益性が高い)、つまり商品企画・開発段階と流通段階(楽曲流通)を押さえ、中間段階(相対的に収益性が低い)をアウトソーシングするという方法により、アップルは莫大な利益を確保しています。蛇足ですが、TDKなどの先端部品メーカも、セットメーカと比較すると、相対的に高い収益率を維持しています。インテルには及びませんが………。
スマイルカーブは
Fig.1
からスタートし、現在では、
Fig.3
となっていると理解できます。
Fig.3
の下段には、個々のビジネスシステムの代表的KFSを示しています。従来は、モノを作れるか否か、効率的にモノを作れるか否かが競争上のポイントでした。製品が成長段階に入ると、付加価値やサービスに競争上のポイントが移行します。また、製品・サービスが同質化すると、商品企画、戦略による差別化に移行します。KFSの変化は、ライフサイクルルールからも当然の帰着です。スマイルカーブは、この動向を一層、加速化させると考えることも出来ます。
最近では、スマイルカーブに関する議論も深まっています(
Fig.4
)。代表的な1つの傾向は、もっとスマイルカーブ現象が顕著になる(提唱者:辻田主幹)と言うものであり、もう1つは、反スマイルカーブ(=アングリーカーブ)(提唱者:橘川教授)と言うものです。どちらが正しいか否かと言う問題ではありません。両者とも、ビジネスモデルの本質を検討、カスタマイズ(自社化)する際に有効な視点であると思います。自社化に関しては、松下電器の事例(先述)が参考になる筈です。
「13.順位戦略」
「15.サーブドマーケットシェア」
プライバシーポリシー